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オルツの不正会計事件

Ortz accounting fraud scandal
Ortz accounting fraud scandal

〜AIバブルへの警鐘〜


2025年に発覚した株式会社オルツ(AIスタートアップ、東証グロース上場)の不正会計事件は、AIバブルへの警鐘を鳴らす象徴的な事案となりました。ビジネスパーソンが押さえておくべき主要ポイントを整理・解説します。



1. 事案の概要

〜時価総額800億円の凋落〜


オルツ社はAI議事録作成サービス「AI GIJIROKU」を主力とし、2024年10月に東証グロース市場へ上場しました。しかし、上場からわずか半年後の2025年4月に不正が発覚。最終的に累計119億円に及ぶ架空売上の計上が明らかになり、2025年9月に上場廃止となりました。


・主な不正内容

循環取引による架空売上の計上。


・過大計上額

累計 約119億円(売上の最大9割が架空)。


・主な手口

広告費・研究開発費として支出し、販売店経由で売上として還流。


・刑事罰

2025年10月、元社長ら4名を金商法違反容疑で逮捕。





2. 不正の巧妙な手口

〜資金の循環〜


今回の事件が特徴的だったのは、製品(ライセンス)の在庫を積み上げるのではなく、「資金」そのものを循環させていた点です。


・資金の流出

オルツが外部企業(広告代理店や研究開発会社)に対し、多額の「広告宣伝費」や「研究開発費」を支払う。


・資金の還流

その支払われた資金が、複数の協力会社(スーパーパートナー)を経由して、再び「AI GIJIROKUのライセンス購入代金」としてオルツに戻ってくる。


・粉飾の完成

実際にはサービスが利用されていないにもかかわらず、帳簿上は「売上」と「費用」が同時に膨らみ、成長しているように見せかけていた。


・ポイント

通常の循環取引で発生しやすい「売掛金の異常な滞留」が、資金を実際に回すことで巧妙に隠蔽されていました。




3. なぜ見逃されたのか?

〜3つの要因〜


急成長するAIスタートアップという「期待値」が、チェック機能を麻痺させたと考えられています。


・経営陣のガバナンス欠如

創業社長によるトップダウン体制が強く、管理部門やCFOが牽制機能を果たせませんでした。上場時の数字を維持しようとする過度なプレッシャーが背景にありました。


・「AI」というブラックボックス

AI開発には多額の研究開発費がかかるため、不自然な巨額支出も「先行投資」として正当化されやすい側面がありました。


・監査・審査の限界

IPO(新規上場)時の主幹事証券や監査法人のチェックにおいて、取引の実態(アカウントが実際に稼働しているか)までの検証が不十分だったと指摘されています。





4. ビジネスへの教訓

〜他山の石とするために〜


この事件は、AI関連企業との取引や投資において以下の視点を持つことの重要性を示しています。


・「売上成長」と「キャッシュフロー」の乖離を注視する

売上が伸びているのに営業キャッシュフローがマイナス続き、かつ広告費や外注費が異常に高い場合は、実態を精査する必要があります。


・KPIの「質」を問う

契約数や社数といった「見栄えのいい数字」だけでなく、実際の稼働率やアクティブユーザー数など、実態に近い指標の透明性が求められます。


・スタートアップのガバナンスリスク

技術力が高い企業であっても、上場直後の管理体制が脆弱な企業は依然として多く、デューデリジェンスの重要性が改めて浮き彫りとなりました。





5.東証の対応


東京証券取引所(東証)は、オルツ社の事件を受け、2025年12月12日に「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」と題した極めて異例かつ具体的な再発防止策を公表しました。


今回の不正が「上場直後」に発覚したこと、また「AI」という実態の見えにくいビジネスモデルが悪用されたことを重く見て、審査体制が根本から見直されています。


●代理店ビジネス・循環取引への「実態審査」の強化

オルツ社が代理店を通じた資金循環で架空売上を作っていたことを踏まえ、形式的な書類審査から、「商流の末端」まで踏み込む審査へシフトします。


・最終顧客の確認義務化

代理店比率が高い企業に対し、上場申請書類に「主要な実質的販売先(最終ユーザー)」の情報を記載させます。単に「代理店 A社に売った」という記録だけでなく、「誰がそのサービスを実際に使っているか」を東証が直接的・間接的に確認します。


・「実態のないアカウント」の排除

SaaSなどの月額課金モデルでは、アカウントのログインログや利用実績のサンプリング調査など、IT監査的な視点でのチェックが求められるようになります。



●監査法人・主幹事証券の「交代経緯」を深掘り


オルツ社が上場準備期間中に監査法人を交代していたことが「危険信号(レッドフラッグ)」であったとの反省から、交代の背景を徹底的に洗います。


・前任者への直接ヒアリング

監査法人や主幹事証券が交代した場合、東証が前任の監査人等に対して直接ヒアリングを行います。


・守秘義務解除の要請

上場申請会社に対し、前任者が交代理由を隠さず話せるよう、守秘義務を解除する環境整備を強く求めます。「意見対立があったのではないか」「不正の端緒を見つけて辞めたのではないか」という疑念を徹底追及します。


●内部通報体制を「審査項目」に格上げ


形だけの内部通報窓口ではなく、実際に機能しているかを厳格に審査します。


・独立性の確保

通報窓口が経営陣(社長など)から完全に独立しているか、通報内容が不正の当事者に漏れない仕組みになっているかを確認します。


・東証への直接通報の周知

上場準備会社の役職員に対し、東証が設置している通報窓口の存在を周知することを義務付けます。社内で握りつぶされる情報を、直接市場側でキャッチする狙いです。


●社外役員・監査役への「踏み込んだヒアリング」


経営陣の暴走を止められなかったガバナンスの欠如を是正します。


・「形式」から「実装」へ

社外取締役や監査役に対し、東証が「どのような議論を行ったか」「不正のリスクをどう認識していたか」を詳細にヒアリングします。


・就任経緯の確認

社長の「イエスマン」が選ばれていないか、独立した専門性を持って監督できる人物かどうかも審査の対象となります。





6.IPO市場の「信頼回復」への転換点


今回の東証の対応は、「AIだから成長性は高い」という期待先行の審査を終わらせるという強い意志表示です。


・ビジネスへの影響

今後、IPOを目指すスタートアップにとっては、「商流の透明性」と「監査法人・証券会社との誠実なコミュニケーション」が、技術力以上に重要な合格基準となります。




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©2023 合同会社ラパンサービス

Écrit par Hideo Yamamoto.

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