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モームリ事件が浮き彫りにした課題

Issues highlighted by the Momuri incident
Issues highlighted by the Momuri incident

〜退職代行サービスを巡る論争〜


退職代行サービス「モームリ」を巡る弁護士法違反容疑での家宅捜索は、急成長するこのビジネスモデルの抱える構造的な問題を浮き彫りにしました。本人に代わって退職の意思を伝えるというサービスは、退職に困難を抱える人々にとって救いの手となり得る一方で、その是非や利用者の心理、法的な位置づけに関して、依然として様々な意見が交わされています。


特に、退職代行サービスを利用する人々に対しては、「内容証明郵便で退職届を出すだけで済むのに代金を払う価値があるのか」、「責任があるビジネスパーソンなら自分で退職手続きをするのが筋ではないのか」といった、費用対効果やビジネスパーソンとしての姿勢を問う声も少なくありません。



■「自分で辞められるはず」という認識と現実のギャップ


「退職代行サービスを使う人の気持ちがわからない」という意見の背景には、「退職の意思表示は個人でできるもの」という考え方があります。民法上、期間の定めのない雇用契約であれば、退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば雇用契約は終了するとされています。この意思表示は、内容証明郵便を利用すれば、会社側の受領を証明しつつ、法的に確実に行うことが可能です。


実際、内容証明郵便の送付にかかる費用は、弁護士などに依頼せずに自身で行えば、数千円程度に収まることが多く、数十社に上る退職代行サービスの利用料(数万円程度)と比較すると、たしかに費用は抑えられます。


しかし、この「自分でできるはず」という認識と、退職代行サービスを利用する人々の現実の間には大きなギャップがあります。パワハラや過度な引き止め、精神的な疾患など、「退職の意思表示はできても、それを上司や会社に直接伝えることが極度のストレスや恐怖となってしまう」状況が存在するのです。このような状況下では、単なる事務手続きとしての退職手続きが、「命綱」とも言える代行サービスに委ねられることになります。




■転職への影響、引き継ぎ・残務処理の問題


また、「退職代行サービスを利用すると転職で不利になる可能性がある」という懸念も根強く存在します。代行サービスの利用が転職先に知られる可能性は低いとされますが、業界内の狭いコミュニティや、代行サービスを利用したこと自体をネガティブに捉える企業文化がある場合、間接的な影響がないとは言い切れません。


さらに、「退職の意思表示ができても引き継ぎや残務処理が必要だ」という指摘は、特に責任ある立場にあったビジネスパーソンにとっては重要な点です。退職代行サービスは、原則として「退職の意思伝達」に限定され、会社との交渉(引き継ぎ方法、退職日、未払い賃金など)は弁護士または労働組合でなければ非弁行為となるため、残務処理や引き継ぎの交渉が必要な場合は、代行業者では対応に限界があります。




■法的な対応が必要なら「弁護士」へ


こうした限界があるため、「退職が難しいなら弁護士に依頼した方が良いはずだ」という意見は、非常に合理的です。未払い賃金やハラスメントによる損害賠償請求、退職日の交渉など、法的な交渉が必要なケースでは、弁護士に依頼することで、適法かつ強力に問題解決を図ることができます。


しかし、弁護士への依頼には、代行サービスよりも高額な費用がかかること、そして「世の中がもっと気軽に弁護士を利用できるような雰囲気になって欲しい」という意見が示すように、一般の人々にとって弁護士の敷居が高いという現実的な問題があります。


モームリの事件は、非弁行為のリスクを伴う民間代行業者と、高額な費用と敷居の高さがネックとなる弁護士という選択肢の間で、退職に苦しむ人々が「抜け道」を求めた結果とも言えます。退職代行サービスを巡る議論は、個人の責任論に帰着させるのではなく、現代社会の労働環境の厳しさや、法的なサポートへのアクセスしやすさという、より構造的な課題を私たちに問いかけていると言えるでしょう。




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©2023 合同会社ラパンサービス

Écrit par Hideo Yamamoto.

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